プレゼンテーション
-

レクチャーの組み立て方(演奏する人向け)
時々、音楽レクチャーの組み立て方を聞かれることがあるので、ここにまとめようと思う。ただ、わたしにできるのはどちらかといえば演奏する人向けのレクチャーの作り方なので、バチバチの研究発表というよりは、一般のお客様またはクラシックファンに向けたコンサート+レクチャーのような形式のものだと思って欲しい。つまり、資料記載の仕方とか、どこから材料を拾ってくるかとか、そういったことには比較的ゆるく、「新事実」を発表するわけではなくて、今までも知られていることや資料を自分なりにまとめて発表する、というものだ。こういう機会は意外と多く、「クラシックファンの裾野を広げる」という目標のもと、企画する主催も多いんじゃないかと思う。どう始めればいいかわからないという方の一助になればいいと思う。 Contents [非表示] テーマの決め方 まず考えるのは、オーディエンスが誰なのかということ。 大人?学生?子供?クラシックに詳しい人なのか、そうでないのか。例えば「ソナタ」と言ったときにそれが何かすぐわかる人なのか、そうでないのかで、レクチャーの内容は全然違うものになるだろう。一番最初に出来る限り、客層のリサーチをするのが良い。その上で自分の興味あることを話そう。 具体的なテーマ決めを考える。 1番簡単なのは、自分が弾いている、もしくはよく知っている曲をそのままテーマにすること。ただ、例えば「ベートーヴェン作曲の《月光》(正式名称ではないけれど、便宜上このタイトルを使います)をテーマにします!」としたとしても、それだけでは話が進まない。《月光》をテーマにするとしたら、その曲にどういう角度からアプローチするのか、というところが1番大切である。初めて《月光》を聴く層だったら、包括的な内容が良いし、そういった知識がすでにある層に向ければ、もっと尖った内容がいい。以下が《月光》の例だ。 作曲家がだれか・曲の成立過程・曲の内容・演奏 形式や構成を分析していく音楽理論的なもの、歴史的背景やベートーヴェン自身に焦点を当てたもの、作曲・出版経緯、楽譜の版比較、周りにいた作曲家達、ベートーヴェンが誰かから受けた影響、ソナタ形式の発展の中での立ち位置、演奏史、次世代の作曲家達からはどう見られていたのか、何故現在人気曲なのか、名ピアニスト達の演奏比較、日本ではいつから誰が弾いてきたのか。また少し特殊だが、ピアノの先生に向けた「弾き方・教え方講座」というのもある。 焦点の当て方は無限でそれがハマると、よく知られている曲でも新奇性のあるレクチャーが作れる。 作曲家その人、というテーマもまたある。 ただこれも、モーツァルトやベートーヴェンなどは星の数ほど先行研究があるので、個人的にはちょっとマイナーな人を取り上げる方がやりやすいかもしれない。そうすれば、何年に生まれてこういう曲を作って、何年に亡くなりました、という話で興味深いものが作れるからだ。もちろん、面白い焦点の当て方ができればメジャーなものでも面白く作れる。「シューマンがかかった病気はなんだったのか」とか、「ナチス時代にベートーヴェンはドイツでどうやって受容されていたのか」とか、医療・科学・社会学・歴史・文学・教育など、別ジャンルからの視点が入るとぐっとオリジナリティがあるものができる。ただこれは音楽ジャンルの外に出ないといけないので、調査力が必要とされるし、あと弾く曲を選ぶのが難しい。音楽学分野に足を踏み入れることになるので、資料精査などの見られ方も厳しくなるのは事実なのだが、演奏家がこういったテーマに取り組むことには大きな意義があると私は思っているので、好奇心と情熱を味方につけて、是非取り組んでみてほしい。 楽曲や作曲家をテーマにするレクチャーはとっかかりには1番やりやすいが、そうでないレクチャーも面白い。国や地域ごとにまとめるのは定番だが面白いものができる。「キューバのクラシック音楽」とか、今までそれほど先行研究が多くないものだったらそのままで良いが、「フランス音楽」「ドイツ音楽」だと、ちょっと幅が広すぎるので、そういう場合は年代も限定しよう。例えば「フランス革命の音楽」とか、「〇〇年代の音楽」とか。歴史的イベントと繋げるのはやりやすいし、面白いものが出来やすいと思う。先述のフランス革命はもちろん、二つの大戦や冷戦についてなど近現代のものになると世代間での感じ方も違い、今だからこそ作れるものもあるだろう。「ソナタ形式の変遷」とか、「《ソロリサイタル》の発展」とか、一つのジャンル・事象に焦点を当てるのも手だ。 専曲や作曲家が有名ならばそれだけ先行研究やレクチャーも多いので、誰がやっても同じになってしまう。たとえどんな一般的な内容だったとしても、自分だけのスペシャリティーが示せると良いと思う。あなただからこそできる、というのが肝なのであります。 大まかなテーマとリサーチはじめ とはいえ、誰だって最初からそんなオリジナリティがあることは思いつかない。なので、最初から限定的なテーマを定める必要はない。リサーチの過程で少しずつ固めていけば良いのだ。そのためにはまずとっかかりが必要だが、伝記を読むのは良いスタートだと思っている。『作曲家◎人と作品』シリーズ(音楽之友社)はおすすめ。作曲家の生涯と作品がまとまっていて、概要をつかむのにとても良いです。(PR文になってるけど、本当にそう思ってるのだ笑)…
