ハミルトン、レミゼ、ウィキッド

去年から観ていたミュージカル(ウィキッドは映画だけど)の感想を全然まとめていなかったので書いておく。もう忘れてることも多いので、雑感。私は全然ミュージカル詳しくないので間違ってることあると思います。

その1

《ハミルトン》は2023年の10月にシカゴのツアーで観た。2010年代最大のヒットミュージカル。公開当時はチケットが全然取れなくて観られなかったので、夢が一つ叶った。アメリカの建国者の一人、ハミルトンの生涯を描いたストーリーである。つまり1755年から1805年が舞台になっているのだが、音楽はラップやR&B、ジャズがメインである。キャラによって音楽のテイストが変わるのも面白くて、ちょっと古い感じのロックや往年のブロードウェイっぽい感じも良く活かされている。キャラクターの衣装は18世紀の感じなので実際の当時の音楽をちょっと想像してしまうのだが全然違って、それがうまいこと反骨精神を表すのに一役買っている。歴史物をロックとかヒップホップでやるというスタイルはミュージカルの中ではある程度伝統だと思うけど(クラシックの音楽家が主役に据えられることが多い気がする)、その系譜の正当かつ最大の後継者ではなかろうか。ずっとラップで歴史上の出来事をなぞりながら進んでいくので歌詞が記事や歴史についての文章みたいになる時もあり、それがラップにのっているという違和感が天才的に面白い。発明である。セリフもなく全てが音楽で語られるので、オペラで言えばレチタティーボがラップに置き換えられている感じだろうか。

実際に観て、舞台セットがかなりシンプルなことに驚いた。後述するレミゼとウィキッドはどちらも豪華なセットが多くそれも見せ場の一つだが、ハミルトンは舞台転換もそんなにない。だけど演出と演者の力で全く違和感なく観られて感心してしまう。もう一つ、ハミルトンは元々白人だった人物もさまざまな人種の役者がオリジナルから演じている。我々が観たときはワシントンが東アジア系の役者だったが、渡辺謙みがあって良かった。日本でいえばハミルトンは歴史上の人物をフィクションも交えて語る、大河ドラマみたいな感じだろうか。《燃えよ剣》みたいな熱さもあって、とかく魅力的な作品である。

その2

《レ・ミゼラブル》は説明不要の大人気ミュージカル。19世紀のフランスが舞台となっている。フランス革命勃発後の話なので時系列的にはハミルトンより後の時代の話なのだが、上演は1980年代に始まったこちらの方が先だし音楽も(今から見れば)ややクラシック寄りのブロードウェイスタイルなので、比べると「レミゼの方が後!」と思って観るのが難しい。

2024年の10月に観に行った。舞台版を観るのはこれが二度目。10年くらい前に一度NYで観た。映画も好きよ。今回は学生時代に住んでいたランシングにツアーが来たのでそこに行った。観客層はハミルトンと比べると高齢層が多く、グッズTシャツを着ている人も散見されたので、ツアーのたびに観にきたり、他の会場でも観たりしている往年のファンも多い感じがした。さすが名作。音楽も筋書きも把握してるし大丈夫だよね、と思って復習せずに出かけていったのだが、思った以上に入り組んでいたことを観劇しながら思い出した。反省。観劇は二度目だったが、長い時間軸と壮大な物語にふさわしい、素晴らしい舞台セットにも感動した。あれは何セットか同じのがあってツアーの時には持ち運んでるのだろうか?組み立てるの大変だよね?その辺の事情が気になる。

個人の物語という体を崩さないハミルトンと比べると、レミゼの視点はかなり複数の人物にばらけていてずいぶん客観的なところがあるように思うし、音楽もそれを助けているように思う。名曲がたくさんあるが、色々なキャラクターに割り振られている。どちらも壮大な出来事を描いているのだがその差が面白い。私が個人的にレミゼのミュージカルで大事だと思うところは、テナルディエ夫妻が最後までしぶとく生き残るところである。どんどん登場人物が退場していく話の中で出てくるたびにうんざりするような小悪党が最後までいるところに《指輪物語》のゴラムにも通じるような懐の深さを感じて好きだ。昔はあんまりこういうふうに考えられなかったので、年代によって見方が変わるというのもまた名作たる所以である。好きな曲は全部だから選べない。

その3

《ウィキッド》は映画を観た。こちらもずいぶん前に舞台版をNYで一度観たが、その時は英語ができずニュアンスが全然とれなかった。もったいないことをした。ウィキッドの映画は宣伝にものすごい力が入っており、企業コラボがとても多かった。それがどれも可愛くて、どれも欲しくなってしまうのである…。しかもウィキッドはエルファバとグリンダという女子の友情がメインに据えられた物語なので、私としてはどちらかだけのグッズを買っても意味がないのである。二人分のグッズが揃ってこそ初めてウィキッドのグッズになるのだ。というわけでスタバのタンブラーを二パターン両方買ってしまった。可愛すぎて今も使えなくて毎日鑑賞している。

さてそんな盛り上がっている映画は2時間40分もある。しかも2部作なので、今回公開されたのはまだ前半だ。私はオリジナルキャストのサントラが好きで結構聴いていたので、映画版はどんな感じなんだろう?と思っていたが、これはこれでとても良かった。特にエルファバのシンシア・エリヴォの繊細な演技が素晴らしくて、感動した。エルファバって力強さを感じさせられることが多いキャラクターだと思っていたのだが、彼女の演技からはその強さを裏付ける聡明さ、やさしさ、そして弱さが伝わってきて説得力が素晴らしかった。グリンダのアリアナ・グランデは正直なところ想像できなかったのだが、すごく素敵だった。オリジナルキャストのクリスティン・チェノウィスの声って唯一無二だし、一つの歌の中でクラシックやジャズなどあらゆるジャンルを縦横無尽に駆け巡れて本当にすごいと思うのだが、そこに対してのリスペクトが伝わってきた。あれだけのスターなのに謙虚な人なんだな。そしてとっても可愛かった。ピッタリ!

もう一つすごいなと思ったのは、映画の美術や演出が、まるでアニメを観ているような感覚だったところ。ディズニーっぽさを感じるところはもちろん、色合いや風景などはジブリなどの日本アニメ作品を思い起こさせるところもかなりあって、「なるほど、世界に通用する作品になるってこうやって真似されるようになるってことなんだな」と感慨深く思いながら観た。余談だが、ショッピングモールでぬいぐるみなどを見ると、かつてスポンジボブ系の「え、これ可愛いの?」と思うようなキャラクターしかいなかったアメリカのキャラクター達がどんどん日本基準の丸くてキュルンとした目を持っているサンリオタイプの「可愛い」に近づいてきているように思う。世界中で得られる情報が増えてきたことで、かつては別々だった我々の美的基準が少しずつ統一され始めているような感覚がある。これは大変怖いことでもあると思うのだが、予想し得たことでもあり、また、面白いことでもある。映画のウィキッドはそこにうまくのっていて、我々に新しい世界を提供してくれる感じがあり、そういう感覚も面白かった。後編も楽しみです!

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