ヘンレの新しいベートーヴェン(MTNAその②)

MTNAのことはまた書きます〜、とか言って全然書いてなくてごめんなさい。いくつかイベント参加したりAlfred社のウェビナーに参加したりして楽しくやっていたのだが、何も書いてなかった。まあでも、大体その辺は日本と一緒よ。先生同士の交流会があったり、コンサートがあったり、発表会の手伝いに行ったり、公開レッスンがあったり、そんな感じ。一つ驚いたのは大学院生と久々に話した時、色々卒業後の進路について質問されたことで、ああ自分はもう質問する側ではなくされる側になってしまったのだな…と遠い目になった。他にはMTNAに入っただけで加入できる生命保険があったり、クロガーというアメリカのヤオコー(?)みたいなスーパーと提携してたりして、そういうの面白いなと思った。PTNAがヤオコーと提携してポイント貯められたりしたら確かに嬉しいですね。

さてそんな中で今日はとても興味深いウェビナーがあったので参加した。楽譜大手出版社であるヘンレ社のDr. Norbert Gertsch(ちょっと日本語表記見つからなかった。独語読みが上手くないもんで原語表記)が来て、ヘンレから今刊行している新しいベートーヴェンソナタ集についてプレゼンするというものだ。ベートーヴェンのピアノソナタの刊行についてはめっちゃ興味がある。それがどんなに大変なことか、少し知っている。だから、ベートーヴェンのソナタといえばヘンレ、というくらいスタンダードに使われているヘンレの新しいベートーヴェンピアノソナタ集のことは絶対に聞いてみたかった。さてソナタ集はピアニストのマレイ・ペライア氏と共になんと20年以上かけて作ってるらしい。もうズッ友じゃん。一巻と二巻を2022年までに刊行し、ついに三巻を2027年に出して完結させることを予定しているそうだ。

プレゼンはまず、原典版(クリティカル・エディション)とは何か、という話から始まった。この辺は大体基本的なことを話していた。そしてその後はベートーヴェンのソナタの譜面を起こす時基にする一次資料探しがいかに大変か、という話。比較に出てきたのはモーツァルトで、彼の場合はまず自筆譜が綺麗で、出版しない作品も多かったせいで一次資料が一つに絞られていることが多く、あまり苦労しないそうだ。それに対してベートーヴェンはまず自筆譜がありえないほど汚く何度も修正しているせいで完成形が見てる側に伝わらず、写譜師や彫版師は人間だから当然ミスをし、さらにベートーヴェンはとても校正が下手でそのミスを見逃し、最終的に間違いだらけの初版が刊行されて怒り、修正された新しい版が出るがそこにも新たな変更を加えて結局「最終的なアイディア」がわからない、という状態のものになるせいで複雑な編集過程を辿らざるを得ないらしい。「ベートーヴェンは譜面を見るたびに校正ではなく自分のクリエイティブ・プロセスに戻ってしまう」という言葉が面白かった。そういう人、人間としては魅力的なんだけど、確かに編集者にとっては地獄ですね。

今出ているヘンレのベートーヴェンピアノソナタ全集は1952-53年に刊行されたもので、今でも我々にとっては黄金の定番と言っても良い。Dr. Norbert Gertschは良い点としては信頼できるソースから譜が起こされていること、美しい譜面、譜めくりが楽なことなどを挙げていた。一方改善点としては、編集・彫版上のルールに厳格に従いすぎたあまり元の意図が読み取りにくくなっている箇所があることや、透明性に欠けている部分があったこと、また、研究の発展によって一次資料の評価が変わったことなどを挙げていた。

「編集・彫版上のルール」て何だろうと思ったが、符尾の向きやスラーの位置を美しい譜面のために見やすいように勝手に変更していたことや、例えば同じパッセージが出てきた際、元々違う形だったはずのスラーを勝手に統一して同じ形にしてしまったりしていたことらしい。また、当時なかった音域の音を勝手に足すことは新版ではしないとのことだ。足さなくてもベートーヴェンは素晴らしい解決方法をすでに見つけていると言っていた。強弱記号も別々に書かれたものをまとめて表記していたところが旧版にはあったそうだが、それらも元資料の表記に従う、ということである。他にもいくつかポイントがあって実際の譜面を出して説明してくれたのでとても分かりやすかった。私の書き方は拙くて申し訳ない。

新しい資料についてはOp. 31が例に出された。これまで信頼されていた版が実は全く信頼できなかったことが新しく分かり、基にする版が変わったという話だった。なのでOp. 31は大きく変わると言っていた。

変更箇所の数については100箇所単位であり、しかし小さな変更も加えたらもっとたくさんになるそうだ。

興味深かったのは校訂報告について。ヘンレ版は「パフォーマーのための版」であることをとても大事にしているらしい。なので、弾く側を邪魔するような校訂報告をズラズラ長く書くのはやめてただ「コメンタリー」と称し、できる限り減らすようにしているとのこと。この辺は版による考え方の違いであるが、「こういう考え方もあるのか」と思って面白かった。絶対知るべき大事なことは譜面のフットノートにつけている、とも言っていた。

このあとは質問コーナー。面白い質問がいっぱい出てきた。アメリカ人は質問がたくさんできるところがすごいと思う。そして最後のメッセージは

「USE URTEXT!! IT IS NO NEEDED TO BE HENLE, BUT URTEXT. OTHERWISE YOU DON’T PLAY BEETHOVEN(原典版を使ってください!ヘンレじゃなくてもいいので原典版を使って。そうじゃないとベートーヴェンを弾いてることにならないよ)」

とのこと。とっても面白かったです。この投稿は聞いてからバーっと書いたのでミスあるかも。また後で復習しよ〜。

終わり。

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