私はアガサ・クリスティの小説が大好きで、ポワロ、ミス・マープル、トミーとタペンス、ハーレクイン、パーカー・パイン(一番好き!)、また探偵が登場しない作品やオカルト系短編に至るまでほぼ全作読んだんじゃないかと自負しているのだが、《アクロイド殺し》は最も有名な作品の一つであるにもかかわらず未読だった。
理由は簡単で、読む前にネタバレを見てしまったからである。忘れられないネタバレではあるが、それは10代の頃だったし、いろいろなミステリーを通ってきた今読んだら、ネタバレを知っていてもむしろ面白く読めるんじゃないかと思い、初めて読んでみた。
面白かった。日本語訳も良かった!細かいところまでこだわって訳されているのが伝わってきた。クリスティの小説を読むと、トリックや話の進め方の見事さはもちろん、登場人物が皆生き生きとしていることにつくづく感心させられる。だいたいどの小説にも問題を抱えた若いカップルとお節介な中年女性、いかつい退役軍人や胡散臭いおしゃべりが出てくるのだが、《アクロイド殺し》も例外ではなく、「ああこれこれ、これがアガサ・クリスティだよね〜」という実家のような懐かしさ(?)で楽しく読破できた。みんなが秘密を抱えているというのもいつものパターンなのだが、これが皆自然なところも良い。物語が展開するためにキャラクターが動かされているというわけではなく、「確かにありそう」と想像できるのが素晴らしいのだ。中高生の頃にハマってクリスティ作品を読みまくっていた頃はトリックや犯人にばかり気を取られていたが、大人になって読んでみるとその人間観察眼に舌を巻いた。ミステリーだと容疑者たちの抱えているそれぞれの事情は怪しげな秘密に思えるが、現実世界だって誰もが問題を抱えていて、事件に巻き込まれていないから「秘密」になっていないだけなのである。こういうふうに考えられるようになったのは間違いなく自分が歳をとったからなので、また別の作品も再読してみたら全然違う感想を持つのかもしれない。読んでみたい。
2018年に三谷幸喜がこの作品をドラマ化していたことは知っていたが、例によって原作未読だったために視聴していなかった。2015年に出た《特急東洋》=オリエント急行は後になってから観たのだが、ちょうどケネス・ブラナーとジョニー・デップが出ていた2017年の映画版も視聴したところだったので、オリエント急行はどうやって日本に置き換えるんだろうという興味ばかりが先立ってしまって、話に集中しきれなかった。だが本来三谷幸喜は人間を描くことにかけてはクリスティに負けていない人だ。アクロイドをどう料理したのかということが気になり、観てみた。
いやーこちらも面白かった。日本版になっていることは違和感を覚えずに観れた。キャストのまとまりが良くて、一堂に介すシーンがしっくりくる。また、背景音楽が少なくて演者に場を任せているところが多いことも良かった。ポワロの野村萬斎さんは一人だけ異世界から来たみたいだが、それがポワロっぽくてとても良かった。大泉洋さんの演技は実はあまり拝見したことがなかったのだが、良い俳優さんですね…!細かい演技が素晴らしかった。また私はAKBでは秋元才加さんが好きだったので、ご活躍の様子が観れてとても嬉しかった。
どうやって映像化するんだろうと不思議だったのだが、トリックや話の進め方はまさに原作通り。こんなに原作通りに進んだ映像作品も珍しいんじゃないかと思った。少しだけ改変があったが、それもとても良くてちょっとした驚きを持って観た。王道の探偵と犯人が対峙するシーンも素晴らしく、ラストのカットもとても良かった。
というわけで大満足でした。《アクロイド殺し》に対するマイナスイメージは払拭されました。それにしても読後/視聴後に感想を検索して、ネタバレを知った状態でこの作品を読んだ人の多さにびっくりした。一人じゃなかった…!何が大変って、この作品のネタバレって一行で終わっちゃうんだよね。めっちゃ簡単なの、ネタバレが。それでいて衝撃的。いやーすごい作品だわ。


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